ここ数年で爆発的に認知度が高まった「グランピング」。キャンプのような自然体験と、ホテル並みの快適性を両立した新しい宿泊スタイルは、幅広い層に受け入れられ、瞬く間に全国各地へ広がった。その背景には、「コロナ禍」「SNS」「自然回帰」という3つの時代的潮流が複雑に絡み合っていた。
1. コロナ禍で高まった“密を避けた旅行ニーズ”
グランピングが社会的な注目を集めるきっかけとなったのは、2020年以降の新型コロナウイルスの感染拡大だった。多くの人が「密」を避けることを求められ、都市型ホテルや団体向け観光から離れ、屋外で過ごせるレジャーに注目が集まった。
グランピングはそのニーズにぴったり合致した。テント型やコテージ型の個別空間で、人との接触を最小限に抑えながら過ごせる上、キャンプと違って設備や食事の準備が不要。特に小さな子どもを持つファミリーや、体力に不安のある高齢者にとっては、「自然体験の入り口」として最適な形だった。
全国的に予約が急増し、なかには稼働率90%超を記録した施設も登場。感染症の流行が後退した現在も、「密を避けつつ楽しめる快適なアウトドア体験」として、グランピングの人気は根強く残っている。
2. SNS映えが生んだ“行きたくなる空間”
若年層を中心に、グランピングブームを後押ししたのがSNSと“映える文化”である。グランピング施設の多くが、InstagramやTikTokでの拡散を意識し、見た目の美しさに徹底的にこだわった。ドーム型テント、ウッドデッキ、暖炉付きのラウンジ、ラグジュアリーなBBQ空間など、どこを切り取っても写真映えする構造が、投稿を通じて次々と話題となった。
SNS上で特に人気のあった投稿の傾向は以下の通りである。
投稿ジャンル |
内容の傾向 |
特徴的キーワード例 |
夜のライトアップ |
ドーム型の照明、焚火、星空など |
ドーム、焚火、非日常、映え空間 |
食事体験 |
BBQ、地元食材、盛り付けの工夫 |
BBQ、地元野菜、ウッドテーブル |
室内設備 |
ベッドや暖炉、アメニティなどのホテルライクな快適性 |
快適、贅沢、内装、室内 |
自然との一体感 |
川沿い・森・海辺など、自然を取り込んだ立地設計 |
自然、アウトドア、テラス |
「ここどこ?」「行ってみたい!」という反応を誘発するビジュアルは、口コミとバイラル効果を同時に生み、グランピングの存在を一気に浸透させた。Z世代をはじめとする若年層にとっては、「体験すること」だけでなく、「発信すること」に価値を見出す傾向が強く、グランピングはその両方を満たすレジャーとして機能した。
3. 自然回帰と新しいライフスタイルへの適応
さらに、グランピング人気の根底には、近年強まっている「自然との共生」や「スローライフ」志向もある。都会の喧騒から離れ、静かな自然の中で過ごすこと自体がストレス解消の手段となっており、癒しや自己回復を求める層にも支持されている。
その延長線上にあるのが「ワーケーション」や「多拠点生活」との親和性だ。テレワークが当たり前になった今、地方のグランピング施設を仕事と休息を両立させる“新しい拠点”として活用する動きが広がっている。
特に以下のような設備・サービスが、働く環境としての快適性を支えている。
機能 |
内容例 |
インフラ |
Wi-Fi完備、全棟電源あり、24時間利用可能 |
作業空間 |
個室ワークブース、防音対応ロッジ、屋根付きデッキ |
サービス |
コーヒーサービス、朝食付き、室内暖房完備 |
滞在の柔軟性 |
1泊〜1ヶ月まで対応、法人向け契約プランあり |
立地の選択肢 |
阿蘇、白馬、淡路島など、自然と景観に恵まれた地方拠点 |
一部の事業者は、定額制サブスクリプションや地域創生を視野に入れた長期滞在プランも展開しており、「観光地」から「第二の生活拠点」へと進化を遂げつつある。
ブームから新しいライフスタイルへ
グランピングは、単なる一時的な流行にとどまらず、時代の価値観の変化とともに生まれた“新しい宿泊体験”である。コロナ禍の安心感、SNS映えするビジュアル、自然と共にあるライフスタイル。そのいずれもが、現代人の潜在的な欲求にマッチしていたからこそ、ここまでの拡がりを見せたのだ。
今後は、短期のレジャーだけでなく、働く・暮らす・癒すといった多様な目的を持った人々の受け皿として、グランピングはさらなる進化を遂げていくだろう。