クロスロードゲームとは?防災カードゲームの概要と特徴
災害時の「決断力」や「多様な価値観への理解」は、机上の知識だけではなかなか身に付きにくいものです。そこで注目されているのが、クロスロードゲームという体験型の防災教育教材です。これは京都大学防災研究所の矢守克也教授を中心に開発された教育用カードゲームで、実際の災害時に直面するようなシナリオに対し、参加者が「YES」か「NO」の二択で判断を行い、その理由をグループで共有・議論していく形式です。
このゲームの最大の特徴は、正解が存在しない問いを通じて、防災におけるリアルな葛藤や価値観の違いを可視化できる点にあります。例えば「避難所にペットを連れて行ってもよいか」「高齢者を優先して避難させるべきか」といった問いに対して、多様な立場や状況を想定しながら判断する訓練ができます。これにより、参加者は思考力・判断力・共感力を育むとともに、実際の災害時に即した行動原理を獲得できます。
また、クロスロードゲームは非常に汎用性が高く、対象年齢や地域、状況に応じて内容をカスタマイズすることも可能です。例えば小学生向けには「学校安全編」、企業向けには「業務継続編」、地域コミュニティ向けには「地域防災編」などが用意されており、柔軟に活用できます。
教材はナカニシヤ出版や京都大学防災研究所を通じて購入が可能であり、セット内容にはカード、進行マニュアル、評価シートなどが含まれています。これにより、防災担当者が初めてでも迷わずに実施できるよう設計されています。
以下はクロスロードゲームの代表的な構成内容の一例です。
内容項目
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詳細説明
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カードの形式
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A6サイズ、YES/NOの2択形式で全30問程度
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設問例
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「職場にいる時、家族の安否確認が取れないまま避難しますか」など
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セット内容
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カード一式、進行マニュアル、記録シート、参加者用YES/NOカード
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推奨実施時間
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60〜90分(導入・発表・振り返り含む)
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クロスロードゲームは防災教育の導入教材として高い効果が実証されており、特にNHKによる番組化や全国の小中学校での導入事例により注目度が高まっています。防災ゲームの中でも「問いかけによって考える力を引き出す」点において独自性があり、災害に備えるための初期段階の意識改革に適したツールといえるでしょう。
また、災害心理学や集団意思決定理論といった学術的裏付けのある構成に基づいており、教育研究の観点からも高い評価を得ています。これまでの避難訓練のような形式的なものではなく、自らが災害対応の主役になるための「準備」としてクロスロードゲームが果たす役割は大きく、防災教育に新たな潮流を生んでいます。
防災教育にクロスロードが採用される理由とは
防災教育において重要なのは「実感を持って学べること」です。クロスロードゲームが多くの教育現場や自治体で採用されているのは、その参加者主体型の設計と、実際の災害場面をリアルに想定した問いによって、体験的に学べる点にあります。
従来の防災教育では、知識を与えるだけの講義型が主流でしたが、これでは受け身になりやすく、行動変容に結びつかないケースが多く見受けられました。クロスロードはその点を解消し、参加者が自らの価値観や判断基準を他者と共有することで、防災意識の内面化を促進します。
特に教育効果が高いとされているのが、以下の3つのポイントです。
- 意見交換を通じた共感と多様性の理解
- 実在する課題設定による現実味のある判断訓練
- 自己の判断基準を見つめ直す機会の創出
たとえば、ある小学校では防災月間の一環としてクロスロードゲームを実施し、児童が災害時の選択肢について真剣に意見を交わす姿が見られました。また、企業研修でもBCP(事業継続計画)と組み合わせて使用することで、社員の危機管理意識が向上したという報告もあります。
クロスロードが高評価を得ているもう一つの理由は、年齢や知識レベルに関係なく参加できるという点です。設問内容は小学生から高齢者まで幅広く対応でき、地域の防災訓練に取り入れられるケースも増加しています。
以下は防災教育の場におけるクロスロード導入例の比較です。
実施主体
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導入形態
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参加人数
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活用目的
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公立小学校
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授業・特別活動
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約30人
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災害時の判断訓練と家族との意見交換促進
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地方自治体
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地域防災訓練
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約100人
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世代間交流と地域課題の可視化
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民間企業
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新人研修
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約50人
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BCP教育・チーム判断能力の養成
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防災教育の効果を最大化するためには、「体験による学び」が不可欠です。クロスロードゲームはその要件を満たす数少ない教材として位置づけられており、実施者からは「参加者の防災意識に明らかな変化が見られた」「形式的な訓練では得られなかったリアルな議論が生まれた」といった評価が寄せられています。
また、進行役のガイドも充実しており、教育の現場でも無理なく導入できる点も魅力の一つです。進行マニュアルにはディスカッションの進め方や参加者の心理的配慮に関する指針も含まれており、初めてでも安心して実施可能です。
このように、クロスロードゲームは防災教育の新しい形として各方面で活用が進んでおり、今後ますますその需要は高まっていくと考えられます。災害のリスクが高まる昨今、形式的な知識の習得から、行動に結びつく「実践的な防災力」へと教育の在り方も変化を求められています。その変化の中心にあるのが、クロスロードゲームなのです。